愛を知る小鳥
「実は昨日専務から美羽ちゃんが帰宅するところを確認してやってほしいって頼まれてたの。急用が入ったせいでちょっとの隙にいなくなってて焦ったわ。ごめんなさい、私がもっと早く来ていれば…」

タクシーの中で申し訳なさそうにするあかねに必死で首を振ることしかできない。泣いてはいないが震えが止まらないためまだまともに話せないのだ。

「ごめ、なさい…迷惑をかけてしまって…」

「何言ってるの! 今日はこのままマンションまで送っていくから。安心してね」

そう言って優しく微笑む姿は、涙で滲んでよく見えなかった。







ピピピッ…
セキュリティを解除する手間がもどかしい。
一分でも、一秒でも早く。エレベーターを降りるとすぐさま駆け出し、遠隔解除していた部屋の扉を思い切り開けた。


「美羽っ!!」


リビングに飛び込むと、支えるようにして座るあかねの隣に体を小さくして俯いている美羽の姿があった。

「…じゅんさ…」

最後まで言う前に大きな腕の中に閉じ込められていた。その温かい感触に、今まで張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れる。途端に目から涙が溢れ始めた。

「ごめ、なさ…また、迷惑を…」

「どうしてお前が謝るんだ。お前は何一つ悪くない」

泣いて震える美羽の体をギュッときつく抱きしめる。胸の中から啜り泣く声がして、胸が締め付けられた。

「専務、すみませんでした。私がきちんと見ていれば…」

「いや、こっちが無理を言ったんだ。むしろ感謝してる。もし君がいなければ大変なことになっていたかもしれない。ありがとう」

「そんな…」

リビングにはいつまでも美羽の悲しげな泣き声だけが響いていた。
< 146 / 328 >

この作品をシェア

pagetop