愛を知る小鳥

11 目覚める想い

「わぁっ、かわいいっ！ 潤さん見てください、パンダがいますよっ！」

透き通るような青空の下、いつもからは想像もつかないほど無邪気にはしゃぐその姿に、潤もつられて笑顔になる。これまで一緒にいてもなかなか一日ゆっくり時間をとることもできず、デートらしいデートもできなかった。初めてのデートだからどこでも好きな所に行こうと提案して、彼女から返ってきたのは意外にも『動物園』だった。普段の落ち着いた彼女からは予想もつかなかった場所だ。

そして今目の前で子どものように楽しんでいる彼女の姿に、思わず目を細める。
いつもの眼鏡も一つ纏めのスタイルもない、等身大の彼女。控えめな花柄のワンピースに黒のレギンス、淡い色のカーディガンには綺麗な黒髪がサラサラとなびいている。
何重もの鎧を身につけて偽りの姿を守ってきた彼女が、それから解き放たれて本来の姿で笑っている。

「潤さん、早く来てください！」

満面の笑みで手招きをする子どものような姿に笑いを堪えつつ、彼女の元へと歩み寄りさりげなく手を握りしめる。一瞬驚いた顔で見上げたが、それはすぐにはにかんだ笑顔になりほんのり頬を染めた。

「私…動物園に来るのって初めてなんです」

予想外の発言に驚きを隠せない。

「そうなのか？ てっきり思い出があるから好きなんだとばかり」

「あっでも、保育園とか幼稚園の時に来たことがあるんだとすれば初めてではないんですけど…。自分の記憶にある範囲では初めてで。…私も潤さんと似たようなものだから…」

「え？」

「…私も小さい頃に父親を事故で亡くしていて。ほとんど記憶には残ってないんです。母は…私には関心がなかったので、こういう場所に憧れがあったっていうか。いつか大切な人ができたら来てみたいって思ってたんです」

そう言って恥ずかしそうに頬を染める姿はいじらしくて、それと同時にどこか儚げでもあって、彼女も自分が知らない苦労を抱えて育ってきただろうことが伝わってくる。