愛を知る小鳥
中学生になる頃には、美羽は生活に必要なありとあらゆる事ができるようになっていた。掃除、洗濯、料理…母親に代わって全てのことを自ら身につけていったのだ。

それでも美羽は母親を恨むことはなかった。たった一人の肉親だから。
寂しい思いをしているのは事実だが、それも自分を育てるためのこと。母がいなければ、自分は施設に預けられるのだろう。それを思えばどんな形であれ親と一緒にいられることは幸せなことなんだと、美羽は自分に言い聞かせていた。
母を困らせないように、少しでも笑顔が見たいと、勉強も必死で頑張った。
成績は常に優秀、その点に関しては「頑張ってるわね」くらいの言葉をかけられたかもしれない。たったそれだけでも、美羽にとっては魔法のような力を持っていた。

だが高校受験を控えた頃、明け方母がベロベロに酔っ払って帰って来たことがあった。酔って帰ることはあっても、そこまでひどい状態だったのはそれが最初で最後だった。美羽は直感で何かあったのではないかと思った。倒れ込んだままの母を必死でベッドまで運んでいると、うっすらと目を開けた彼女はこう言った。

『 あんたさえいなければ次の幸せが手に入ったのに…! 』

その頃母には好意を寄せている男性がいたようだった。お互いいい雰囲気で結婚も意識していたのだろう。だが、年齢の割に大きな子どもがいることを知った相手は母を切り捨てた。男にだらしない女だと。
冷静に考えればそんな男と一緒にならずに正解だったと思えるのだが、その時の母にとってはとてつもない絶望を生んだ。そしてそれを全て美羽にぶつけてしまった。


必死で母を愛してきた美羽の中で何かが崩れた瞬間だった。
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