愛を知る小鳥
「たとえ再会していなくても、私はそうやって一生怯えて暮らしていくんだと思っていました。ずっと一人で」

悲しげに伏せられた瞳が胸に突き刺さる。声をかけようと口を開いた時、言葉を発するよりも先に美羽がこちらを見た。その目は先程までとはうって変わって強い力で漲っていた。

「でも変わったんです。全てが。…潤さん、あなたに出会って全てが変わったんです」

「美羽?」

包まれていた手から自分の手を引き抜くと、今度はその大きな手を包み込むように手を重ね合わせた。

「潤さんは私があなたを変えたと言ってくれました。でもそれは潤さんも同じなんです。私もあなたに出会って、全てが変わったんです。私は自分がこんなに泣いたり笑ったりできる人間なんだって、今まで知りもしませんでした。暗闇の中じゃ怖くて何もできなかったのに…あなたがいれば何も怖くなんてない。全てあなたと出会ってから知ることができたんです」

「美羽…」

言葉にできない思いで胸がいっぱいになり、言葉の代わりにその体を抱きしめた。美羽はされるまま、完全に体を委ねている。

「潤さん、私負けたくない」

腕の中から力強い言葉が溢れてくる。顔を上げた美羽の瞳はこれまでで一番生命力で溢れていた。

「もう怯えるだけの自分でいたくない。…潤さんと一緒に、乗り越えたい」

「美羽…あぁ、そうだ。二人で乗り越えよう」

「…はい!」

力強く頷くと、いつもの彼女らしいはにかんだ笑顔を見せて目尻の涙を拭った。

「私、いつの間にこんなに泣き虫になってしまったんだろう…」

「それでいいんだよ。お前は今まで全てのことを我慢しすぎてたんだ。それでもまだおつりが出るくらいだよ。これからは思い切り泣いて、怒って、そして思い切り笑え。…ただし泣くのは俺の前でだけだぞ」

付け加えるように言った言葉に思わず笑みがこぼれる。

「はいっ!」

満面の笑みで答えると、潤の胸の中に飛び込んだ。
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