愛を知る小鳥
「でもプロジェクトが無事に済んで良かったですね」

「そうだな。今回のプロジェクトはうちにとっても大きなウエイトを占めてたからな。今回の成功でまた業績も伸びるだろう」

「そうですね」

美羽が彼の秘書になってから一番の大仕事だったと言っても過言ではない。それが大成功を収めたともなれば2人にとっても喜びはひとしおだ。

「…プロジェクトが済んだことで忙しさも少し緩むだろうし、今度ゆっくり旅行でも行くか」

「えっ?」

「二人で」

「……」

優しい顔だけれど目はとても真剣だ。二人で旅行に行く。その意味がわからないほど美羽も馬鹿じゃない。その時には、きっと…。
ドクドクと脈打つ胸に手を充てて彼から目を逸らすことなくゆっくりと頷いた。

「はい。行きたいです」

美羽がはにかみながら頷く姿を見て、潤は心から嬉しそうに微笑んだ。



「藤枝専務」


その時後ろからかかった声に振り向くと、今回のプロジェクトに携わった一つの企業の重役らしき男性が立っていた。

「野中さん、どうかされましたか?」

「ちょっと藤枝専務にお話ししたいことがあるんですが…宜しいでしょうか?」

野中と呼ばれた男性は言いながら美羽をちらりと見た。その場に自分にはいてほしくないということだろう。向こうの方を見たが、あかねは社長と共に別の人物と話し込んでいる様子だった。

「専務、行ってください」

「だが…」

「大丈夫です。スタッフの近くから離れませんから」

戸惑いを隠せない潤をよそに美羽は毅然と答える。不安がないと言えば嘘になる。だが仕事の邪魔をするわけにはいかない。それに、スタッフの近くにいれば万が一の時でも何とかなるだろう。美羽はそう信じていた。
潤は納得ができなかったが、かといって仕事の相手を無碍にすることもできない。苦渋の選択だが、やむを得ず美羽の言うとおりにすることにした。

「…すぐに戻る。絶対にスタッフから離れるな」

「はい。大丈夫です」

後ろ髪を引かれる様子で何度も振り返りながら場所を移動する潤の姿を、美羽はいつまでも見つめていた。
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