愛を知る小鳥
もう声を出すこともできない。見上げた先に映るのは愉悦に顔を歪ませた醜い悪魔の顔。
苦しさのあまり目尻に涙が滲んでくる。
息ができない。
このまま死ぬのだろうか。
あぁ、もう何も考えられない…

徐々に薄れていく意識の中で浮かんできたのは潤の顔だった。
自分を心配してくれる顔。
笑ってくれる顔。
怒った顔。
眠った顔。
彼が見せてくれた一つ一つが、走馬燈のように一気に溢れてくる。
涙も止めどなく溢れる。



…いやだ…嫌だ、嫌だ、嫌だ…!!!!
もっと彼とたくさんの時間を過ごしたい。
もっと彼といろんなことをしたい。
もっと、もっと…



ただ彼の傍にいたい・・・



潤さん、潤さん、潤さん…!






バターーーーン! ドガッ!!

「ぐわぁっ!!」

扉が激しく開けられる音と男の呻き声が響いたのはほぼ同時だった。
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