愛を知る小鳥
「専務、ちょっと宜しいですか」

「あぁ、どうかしたか?」

「休憩を今からいただいてもよろしいでしょうか?」

基本昼休憩だが、仕事に合わせて臨機応変にずらして取ることが多い。だが美羽からこうして申し出があるのは初めてのことだった。

「構わないが…何かあったのか?」

「いえ、何もありません。ただこの後の業務を考えて早めに取らせてもらえたらと」

「…わかった。取っていいぞ」

「ありがとうございます」

お辞儀をして出ていく美羽の後ろ姿を潤はずっと見つめていた。美羽もまたその視線を全身で感じていた。
普段しもしないことを理由もなしに希望して、彼が疑問に思わないはずがない。何かがあるなんてことははなからお見通しだ。美羽もそのことは百も承知している。
彼は分かった上で許可をくれた。自分を信じてくれているからだ。
美羽はじんわりと温かくなる胸を押さえながらエレベーターへと乗り込んだ。


一階に降りて真っ直ぐにロビーへと向かう。しばらくすると並んだソファーにぽつんと座る女性が見えてきた。どこか俯きがちだ。

「お待たせしました。藤枝の秘書の香月と申します」

目の前で立ち止まった声にその女性は弾かれたように顔を上げた。

「あ、あの…」

戸惑いがちに口を開く女性に美羽は微笑みかけた。

「もしよかったら少し外でお話ししませんか?」
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