愛を知る小鳥
潤の妹だという女性を見つめた。美羽よりはずっと背が高く、肩までの緩いウエーブのかかった髪が揺れていて、可愛らしいというよりは綺麗な人だ。全体的な雰囲気が潤に似ている、率直にそう思った。

「亜紀さんとおっしゃいましたよね。今日は彼に何か用があったんじゃないですか?」

そう尋ねると、どこか困ったように瞳が泳ぎ出す。

「はい…最後まで会いに来ていいのか迷ったんです。でもやっぱりこのままじゃいけない気がして…」

「…それはどういう意味ですか?」

亜紀はギュッと握りしめた手に視線を落とし、しばらく間を置いてから再び美羽を見た。

「実は…父が倒れたんです」

「えっ」

「もう二週間以上前になります。医者の不養生ってやつで…病気が見つかったんです」

その言葉に美羽も言葉が見つからない。
だが彼女が何故勇気を出してここまで来たのか、全てがわかった。

「今すぐ命に…というわけではありません。でも手術は避けられなくて…難しい手術みたいで、万が一ってことも…ないとはいいきれないみたいなんです。だから私、兄に何も知らせなくていいのか、このままで本当にいいのかってずっと悩んで…」

「亜紀さん…」

「兄が家を出たのは私たちのせいだってわかってます。兄の居場所を奪ってしまったから…」

亜紀はどこか寂しそうな顔で微笑んだ。
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