愛を知る小鳥
「お父様が寝ているときに潤さんの名前を呼んだそうです」

「え…?」

潤の目が動揺したのを美羽は見逃さなかった。

「潤さん、私にはもう会いたくても会える家族はいません。でも潤さんはそうじゃない。たとえすれ違ったって、何度でもやり直すチャンスはあるんです。…生きている限り」

「美羽…?」

美羽は手を下ろすと膝の上で潤の両手を強く握りなおした。

「母がああいうことになって悲しかった。でも最後に母と向き合うことができて本当に良かったと思ってます。もしあの時勇気を出さなければ…私は一生後悔していたと思います。もちろん、私と二人だけで生きていっても潤さんを幸せにする自信はあります。でも、潤さんがほんの少しでも後悔するようなことはあって欲しくない、そう思うんです」

「美羽…」

「会わなくても後悔しないのなら私はもう何も言うつもりはありません。潤さんが決めることですから。ただ、わずかでも迷う気持ちがあるのならば、自分の気持ちに素直に従って欲しい、そう思ってます」

そこまで言うとニコッと笑った。
潤はその顔を見つめると、静かに美羽を抱きしめた。

「…駄目だな、俺は」

「え?」

頭の上から潤の苦笑いが聞こえる。

「潤さん?」

「10も歳が離れてるのに、お前に敵う気がしないよ」

「…え?」
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