愛を知る小鳥
「失礼します」

広い個室の中に足を進めていくと、やがてベッドに横たわる男性の姿が目に入ってきた。その男性はこちらを見ていたが、はじめは誰が来たのかいまいちよくわからなかったのだろう。どこか不思議そうな顔をしていた。
だが、潤の顔をしばらく見つめているうちに、その顔が驚愕に満ちていくのが手に取るようにわかった。

「ま、まさか…?」

ベッドサイドまで足を進めると、潤はそこで立ち止まりゆっくりと頭を下げた。美羽は少し離れたところからその姿を見守っている。

「ご無沙汰しています」

「な、何故…? …いや、何しにここに来たんだ」

男性は目の前の光景が信じられないという顔をしていたが、しばらくすると我に返ったようにどこか突き放すような言葉を投げかけた。

「…亜紀が先日私に会いに来たんです」

「…何だって? …そうか、亜紀の奴、ろくでもないことを吹き込んだんだな。全く余計なことを…」

苦虫を噛み潰したような顔をする父を前に、潤がやがて静かに口を開いた。

「…今更なんの用だ。実家で誰に何が起ころうとも俺には一切関係ない」

潤の吐き出した言葉に父親の顔が強ばる。

「………少し前の俺なら間違いなくそう思ったはずです」

「…どういうことだ?」

「俺の人生観を変えてくれる人に出会ったんです」

そう言うと潤は美羽のいる方を振り返って手招きをした。美羽は緊張しながらも父親のすぐ目の前へとゆっくり近づいていく。
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