愛を知る小鳥
「君は…?」

「俺の妻だよ」

「え?」

父親は驚きの顔で美羽をもう一度見る。美羽は慌てて頭を下げた。

「初めまして。潤さんと入籍させていただきました美羽といいます。仕事では専務秘書を勤めています。ご挨拶が後になってしまって申し訳ありません」

「……そうですか」

しばらく美羽を見つめると、どこか力が抜けたような声で息を吐き出した。

「美羽と出会うまでの俺には家族なんて全く想像できなかったんだ。愛され方も愛し方もろくに知らない俺にとって、結婚なんて何の意味ももたないことだった」

潤の言葉で父親の顔に緊張が走ったのがわかる。

「でも美羽と出会って、自分の中に誰かを大切にしたい感情があるんだってことを初めて知った。それと同時に俺は愛情に飢えていたんだってことを思い知らされた」

「……」

「家を出たとき俺は親父を憎んでた。俺は親父の操り人形じゃないって。だから家を出てからの俺は必死だった。絶対に言ったことをやり遂げて親父を見返してやるんだってね」

室内を不思議な静けさが漂う。父親も美羽もただ潤の言葉に耳を傾けていた。

「ほとんどの目標を達成したはずなのに、いつまで経っても充足感が俺を満たすことはなかった。望んだ通りの人生を歩いてるはずなのにな。…そんな時に美羽に出会ったんだ」

そこまで話すと潤は隣に立つ美羽を見つめた。目が合うと優しく微笑む。

「自分でも驚いたよ。この俺がたった一人の誰かをこんなに大切にしたいって思うなんてね。…でも、彼女に出会ってからの俺は不思議なくらい満たされてるんだ」

「潤さん…」

美羽の瞳が少しずつ潤み始める。
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