愛を知る小鳥
「彼女に出会ってなければ俺は一生親父達に会いに来ることもなかった。でも今回美羽から亜紀が俺に会いに来たという話を聞いたとき、驚くほど心が凪いでいる自分がいたんだ」

そこまで話すと潤は父親の方へ向き直った。とても穏やかな顔で。

「昔の俺がいるから今の俺がいる。今は素直にそう思えるんだ。…だから親父にも感謝してる」

「潤…」

初めて名前を口にすると、父親の顔がくしゃっと歪んだ。ひどく悲しいような苦しいような、それでいてどこか嬉しいような、とても複雑な表情で。そんな顔を見られまいと慌てて窓の方を向くと、そのままぽつりぽつりと話し始めた。

「…私もお前が出ていった後は憎くて仕方なかったよ。きちんとした道を準備してやってるのに何故従わないんだってね。だがしかし、時間が経てば経つほど何故か後悔の念が押し寄せてくるんだ。私は医者として、人として、父親としてどこか欠落しているんじゃないかと」

「……」

ゆっくりと振り返った父親の顔はもう元に戻っていた。けれども最初に見たときの刺々しさはもうどこにもない。

「お前のそんな穏やかな顔を初めて見たよ。そんな表情もできるんだな。私の前では一度だって見せることはなかった。…でもそれも当然のことだな。私がいつも険しい顔でお前と向き合っていたんだから」

「親父…」

父親は美羽を見た。

「美羽さんと言ったね。潤をここまで変えてくれてありがとう。…いや、彼を本来の姿に戻してくれたと言った方が正しいのかな」

「そ、そんな、私は何も…」
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