愛を知る小鳥
「私は自分の目を疑いました。目の前にいるこの男は誰なんだろうと。そこにいたのは見たこともないアホ面で常に鼻の下を伸ばして彼女を見つめるとびきり情けない男だったんですから」

ますます会場が沸く。美羽はハラハラと大成と潤の顔を交互に見やるが、当の本人ははぁ~っと盛大な溜息をついて、やっぱりこうなるのか…なんてぼやいている。

「彼がどれだけ真剣なのかは一目瞭然でした。長い付き合いの中であんな顔を見たのはそれが初めてでしたから。そして…これが彼の本来の姿なんだろうと思うと嬉しかった。これまで彼に関わった人間でそれを引き出せたのは誰一人いない。私も含めて。…美羽ちゃん、君一人が彼をこんなに変えたんだ」

「大成さん…」

「潤は今遅い青春真っ只中だから、美羽ちゃんにはちょっと重すぎるかもしれない。でもあいつの君に対する想いは絶対に間違いない。一生君を大切にする。…だから、どうか友人として彼のことを末永く頼みます」

そこまで言うと大成は美羽に向かって深々と頭を下げた。
顔を上げてもらうように言いたいのに、心が震え、体が震え、言葉に詰まって何も言うことができなかった。涙の止まらない美羽にそっとハンカチを差し出すと、潤が美羽の代わりに口を開いた。

「大成…ありがとう。お前の存在は間違いなく俺の中ではかけがえのないものだった。もちろん今も変わらない。あの頃お前がいてくれたから今の俺がいる。そうでなければ俺はどこかで挫折していたかもしれない。…これからもお前は俺にとって大切な友人だ」

潤はゆっくりと手を差し出した。大成はニッと笑うと、いつぞやと同じように大きな音をたててパンッと手を叩いた。
男の固い友情に、その場にいた全員が胸を熱くしていた。
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