愛を知る小鳥
「薫…どうしてここに?」

「うふふ、今日のパーティには潤も来るんじゃないかと思っておじさんに無理言って私も参加させてもらったの。だって潤ったら最近全然会う時間を作ってくれないんだもの。ねぇ、今日この後ゆっくり会えない?」

薫と呼ばれた女性は煌びやかなスパンコールのワンピースに身を包み、ルージュもネイルも真っ赤に染めた指でゆっくりと潤の腕に手を置いた。だが潤はさりげない動作でその手を離すと、微笑みながら静かに口を開いた。

「いや、そういうのはもうやめるって最後に話しただろう?」

「あんな一方的な話私は納得してないわ! ねぇ、もっとゆっくり話しましょう? 部屋も取ってるのよ」

「何度話をしても変わらない。悪いがそれ以外に用がないのなら失礼するよ。香月、行こう」

笑顔を浮かべつつも相手に有無を言わさない空気をまとい、潤は薫を残し会場の端へと移動していった。突然のことで動きそびれてしまった美羽は薫と呼ばれた女性に会釈をして慌てて追いかけていく。
後ろでは薫が忌々しい顔で美羽を見つめていたことも知らずに。


「よろしいんですか?」

「あぁ、既に話は済んでいることだ」

「お相手の方は納得されていないようでしたが…」

「最初の時点で互いに深入りしないと約束した上での関係だ。どちらかが終わりと言えばそれを受け入れるということも。だから何の問題もない」

「…」

とてもじゃないが美羽に理解のできる世界ではなかったが、恋愛に関しては一切の興味関心のない自分にとって、世の中にはこういう割り切った関係も存在するのだろうとそれ以上考えることをやめた。
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