愛を知る小鳥
「…っ!」

立ち上がろうと手を突くと激痛が走り、徐々に強打した足や腰にも痛みが出てきた。

「専務が待ってるのに…急がないと」

「香月っ?!」

痛みを堪え何とか立ち上がろうとしたところでロビーの方から駆け寄ってくる潤の姿が見えた。

「専務…」

「お前…どうしたんだ? まさか階段から落ちたのか?!」

「すみません、ちょっと足を踏み外してしまいました。大丈夫です。お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。行きましょう」

何もなかったように振る舞うと美羽は痛みを堪えて立ち上がった。だが歩き出そうと一歩踏み出したところでズキッと右足に痛みが走る。どうやら思い切り捻ってしまったようだ。
ほんの一瞬だけ美羽の顔が痛みで歪んだのを潤は見逃さなかった。

「痛いんだろう? 俺につかまれ」

そう言って美羽の手をとると自分が抱えるように身を寄せたが、手を持った瞬間も美羽は痛そうな顔を隠せない。

「手も怪我したのか? 一体どんな転び方をしたんだよ」

「申し訳ありません。ちょっと急いでいたら…」

「まぁいい、仕方がないな」

そう言うと潤はいきなり美羽の身体を抱き上げ、そのまま歩き出した。

「せ、専務っ?! 下ろしてください!」

「駄目だ。手も足も痛いんだろう? その感じだと他にも打ったところがあるはずだ」

「大丈夫です! 歩けます! お願いですから下ろしてください!」

ジタバタと暴れる美羽を無視して潤はエントランスへと向かった。パーティで顔を合わせていた者が何事かとその様子を伺っていたが、全く気にすることもなく歩を進めていく。
だがその時、暴れる美羽から微かな違和感を覚えた。

「…香月?」
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