愛を知る小鳥
見ると美羽は自分の腕の中で小さく震えていた。少しずつ顔色も悪くなっているようだ。

「おいどうした、そんなに痛むのか?」

「……いえ、大丈夫です。本当に大丈夫ですから下ろしてください…」

カタカタと震えながら潤の目を見ることなく小さく呟くだけ。潤は何故美羽がそんなに震えているのかがわからなかった。怪我したところが痛いのだろうか? それとも落下した恐怖?
だが先程話したときにはそんな違和感は何もなかったはずだ。

「おい、本当に大丈夫か? この後病院に行くぞ」

その言葉に弾かれたように美羽が顔を上げた。

「本当に大丈夫です! 家に帰って安静にしていればすぐ良くなりますから!!」

「だが顔色が悪いぞ? 頭を打ってるのかもしれない」

「本当に大丈夫です! お願いですから! このまま帰らせてください…!」

何かに怯えるように顔面を真っ青にしながらそう訴える美羽の様子に潤は困惑する。

(何がそんなに怖いんだ…?)

「わかった。だが明日になっても痛みが増すようであれば病院に行ってもらう。これは業務命令だ」

「…わかりました」

美羽が力なく答えたところでタクシー乗り場へと辿り着いた。潤が美羽を後部座席に座らせようと身を乗り出すと、その瞬間微かに香水の匂いが漂ってきた。今まで一緒に仕事をしてきて彼女が香水をつけていたことなど一度もなかったはずだ。それにこの匂いにはどこか覚えがあるような…
そこまで考えてハッとする。
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