愛を知る小鳥
それから15分ほど車内は沈黙に包まれていた。

「専務、そこの先で降ろしていただければ充分です」

示された先を見ると、そこはただの住宅街。

「お前は一軒家に住んでるのか?」

「いえ、そこから少し行ったところのアパートです。ですからそこで充分です」

その言葉を聞いて潤は盛大に溜息をついた。

「お前アホか? 何のために送ったと思ってんだ。その足で歩いて帰るって言うのか? それじゃ車で帰った意味がないだろうが」

「でも…」

「お前がどうしてもそこで降りたいというならそうする。ただしそこから先は俺が抱えてアパートへ向かう。それでいいな」

「なっ…!」

「そこで降りて俺に抱きかかえられて帰るか、家の前まで車で帰るか、お前が好きな方を選べ」

それ以外の答えは許さないと言わんばかりの眼力で見つめ返された美羽はそれ以上反論する術を失い、渋々車で送ってもらうことを了承した。

「…わかりました。ではこのまま家の前までお願いします」

「ものわかりがよくて助かるよ」

してやったりの顔をした潤だったが、ここまで来て家の手前で降ろして欲しいと言い出す美羽の心情が全く理解できなかった。そもそも怪我をしたから送ると言っているのに家まで送るなとは…まさか俺が何かするとでも警戒されているのだろうか?
…いや、普段の彼女を見ていればそのようなことは考えていないことは一目瞭然だ。だったら何故…?


だがその疑問はすぐに解明されることになる。
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