愛を知る小鳥
どんなに挑発しようとも全く動揺することもなく冷静に応える美羽に百井の怒りは頂点に達した。

「なっ、なんなのあんたのその態度!」

お酒が入っている勢いもあるのだろうか、百井は怒りに任せて思いっきり右手を振り上げた。


ジャリッ…


その時近くで誰かの足音が響く。その音に驚いた百井は我に返ったかのように手を下ろすと、慌ててその場から走り去った。去り際に思いっきり美羽にぶつかって睨むことは忘れずに。

「痛…」

いつかのように抵抗無しにぶつかられた美羽の体は後ろに突き飛ばされ、気がつけば尻餅をついていた。おまけにその反動で眼鏡が足元に飛ばされていて、美羽は溜息をついて眼鏡を取ろうと手を伸ばした。
だがそれよりも先に眼鏡を掴む手があった。弾かれるように顔を上げると、そこには思いも寄らぬ人物が立っていた。

「専務…」

驚きに目を見開く美羽を見ながら、潤は美羽の前にしゃがみ込んで落ちた眼鏡を手にした。

「お前には迷惑をかけてばっかりだな」

申し訳なさそうにそう呟く潤の姿を見て、美羽は慌てて首を振る。

「そんな、専務のせいではありません」

「原因は俺だろ」

「違います。…あ、全く違うということもないかも…しれませんが、今回のことは専務には関係ありません。気にされないでください」

百井のことはともかく、今まで潤と関係があった女性からの嫌がらせに関しては彼に全く非がないとも言い切れず、美羽はつい馬鹿正直に答えてしまった。

「…ふっ、お前はほんとに面白いな」
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