愛を知る小鳥
「ところでどこも怪我はしてないか?」

「はい、今日は本当に大丈夫です」

「今日は、ってことはこの前は大丈夫じゃなかったってことだな?」

潤の鋭いツッコミにしまった!と思う。そしてそれを顔に出してしまった自分に更にしまったと思う。まんまと彼の策略にはまってしまった。してやったりの顔をみせるこの人はやはり一枚も二枚も上手だ。

「ま、今日は素直に信じることにする。もうこんな時間だし今日は送らせろ」

「えぇっ? 今日は本当に元気ですから自分で帰れますよ!」

「せめてもの罪滅ぼしだ。それにここまでいたら送るのが自然な流れだろ? 安心しろ、取って食やしないから。いいから送られとけ」

「そんなことは心配してません! …それじゃあすみません、宜しくお願いします」

断ったところできっと結果は変わらないと判断した美羽は素直に申し出を受けることにし、潤は満足そうに頷いた。
それからタクシーで美羽のアパートまで向かった。道中の車内ではほとんど会話らしい会話もなかったが、決して重苦しさはなく、むしろどこか穏やかな空気が流れていて、互いに不思議と居心地の良さを感じていた。


「じゃあな。ゆっくり休め」

「はい、本当にありがとうございました。今日もお疲れ様でした」

深々とお礼を言うと、美羽はいつぞやと同じように部屋の前でまた振り返りお辞儀をしてから中へと消えていった。潤はその姿をあの時とはまた微妙に違う気持ちで見送っていた。
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