愛を知る小鳥
「君に出会うまでの彼は秘書でも苦労していた。聞いたかい?」

「はい…少しだけですが」

「彼はあの容姿なこともあって、本人が望む望まざるに関係なく女性が寄ってきてしまう。それが彼自身を本当に愛してのことならいいんだ。でも多くはそうじゃない。器にしか興味がないんだ。もちろん中には真剣な子もいただろう。しかしそういう子ほど嫉妬にかられた女性達の格好の餌食になってしまう。彼が真剣になる前にはもういなくなってしまうんだ。皮肉なものだがね」

「…」

「つい数ヶ月前にもう女性の秘書は金輪際ごめんだとこぼしていたのに、蓋を開けてみればまた女性だと言うじゃないか。どういう風の吹き回しだろうと私は不思議に思ってね」

美羽は潤と初めて顔を合わせた時のことを思い出した。あの時は美羽自身も納得ができず、何故自分がこんな目に? と思ったことを。

「初めて君に会ったときに直感で、あぁ君なら大丈夫だと思ったよ」

「私が専務とどうこうなるということはあり得ませんからね」

美羽は冗談交じりに答える。

「いや、そうじゃない。彼が君に信頼を置いているのがすぐにわかったんだ」

「信頼…ですか?」

「そう。私は彼との付き合いはもう10年以上になるが、秘書に対してああいう空気を纏っていた彼を初めて見たよ」

そんなことあるはずない。だってあの時はまだ出会って1週間程度しか経っていなかったのだから。

「不思議に思うかい? それでも本当のことだよ。現に今君と彼は揺るぎない信頼で繋がっているだろう?」

信頼…? 人生に置いて最も縁のない言葉だと思っていた。
けれどいつの間にか自分でも認めざるを得ない事実となっていた。自分は彼を信頼しているのだと。

「…はい。専務のことは私にはわかりませんが、私は専務を信頼しています」

「彼も同じだよ」

今井は大きく頷いて微笑む。
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