愛を知る小鳥
「今井さんに何か言われたのか?」

店の前で今井と別れてエレベーターへと向かう途中、潤がおもむろに尋ねた。

「…専務の学生の頃のお話を少しされていました」

「…ったくあのおっさん、どうせ大袈裟に苦労話でもしたんだろう?」

潤は苦笑いしながら溜息をつく。

「いえ。専務に対して心からの愛情をもっていらっしゃるんだなということが伝わってきました。本当に大切に思われてるんですね」

美羽は今日を通して感じたことを素直に口にしていた。そこにエレベーターが到着し二人は中に乗り込む。何か違和感を感じて隣に立つ潤を見上げると、どこか複雑そうな顔をした彼がいた。

「専務?」

「…まったく君は、本当に駆け引きなしなんだな」

「…? …専務、もしかして照れてらっしゃいますか?」

「っ、照れてなんかいない!誰がおっさん相手に照れることがあるんだ」

言いながら、乗ったはいいが目的地を押していなかったことに気づき慌てて1階のボタンを押す。それと同時に心地よい揺れが伝わる。普段はめったに見られないその姿に、美羽は思わず笑ってしまった。

「君も結構な悪趣味だな」

「ふふっ、すみません。でも本当にお二人の関係は素敵だと思いました」

「…まぁ、実際あの人のおかげで今の俺があるわけだしな。感謝してもしきれないと思ってる」

「羨ましいです。そういう相手に巡り会えるということは」

そう言った美羽はいつかもそうしていたように、どこか遠くを見るような眼差しで儚げに微笑んだ。何か憂いたその姿に、思わず潤は声をかけそうになる。

「こうづ…」


バチンッ、ガタン!


その刹那、目の前が一瞬にして暗闇に包まれた。
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