愛を知る小鳥
「な、なんだ…?」

突然襲ってきた暗闇に潤は驚きを隠せない。どうやらエレベーターも止まっているらしい。停電だろうか? ほどなくして館内アナウンスが流れてきた。

『ただいま電気系統のトラブルにより館内が停電しております。お客様各位には大変なご迷惑をおかけし申し訳ありませんが、ただちに復旧作業を行いますので今しばらくお待ち下さい。繰り返します…』

こんな大手のホテルで停電とは。大変な騒ぎになりそうだなと思いながら既に潤は平常心を取り戻していた。アナウンスの通りそう時間もかからず復旧するだろう、今は待つしかない。
ふと停電してから美羽が一度も口を開いていないことに気づく。暗さで場所がよくわからないが、先程までの立ち位置を元に美羽のいる方向へと一歩足を進めた。

「香月、だいじょうぶ…」



「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」



次の瞬間、突如暗闇と静寂を切り裂くような悲鳴が轟いた。

突然のその出来事に一瞬何が起こったのかわからなかったが、それが美羽の叫び声だと気づいた時に潤も軽くパニックを起こしそうになる。だがここは自分が冷静にならなければ。

「香月、落ち着け。大丈夫だ。すぐに復旧する」

「いやっ、いや…こないで! こないでっ!!!」

初めは暗闇にパニックを起こしているのだろうと思っていたが、どうも様子がおかしい。

「香月! 落ち着け!」

「はぁっはぁっはぁっ」

美羽の呼吸が激しく上がり始める。過呼吸を起こしているのかもしれない。潤は声を頼りに美羽の居場所を探し出し、腕を掴んで声を上げた。

「香月っ!」

「いやぁっ! 触らないで! 触らないでぇっ!!」
< 74 / 328 >

この作品をシェア

pagetop