愛を知る小鳥
「余計なことは考えなくていいからとにかくゆっくり休むんだ」

そう言って背中に回していた手を離すと、そのままゆっくりとベッドに横たえるように美羽の体を倒した。布団をかけて母親が子どもをあやすようにその上からポンポンとリズムよく叩く。

「お前が眠るまでここにいるから。安心して寝ろ」

「…なんだか…おかあさんみたいですね…」

リズムよく刻まれる振動が心地よく体に響いてくる。ほんの少し微睡んできた美羽の様子を見て潤はフッと笑った。

「こんなにでかいのが『お母さん』か?」

おどけて言うのにつられて美羽もほんのりと微笑む。

「…はい、なんだか…とっても安心…できます…本当に…ありがとう、ございます…」

言いながら徐々に瞼の落ちてきた美羽は、やがてそのまま眠ってしまった。色々あって疲れていたのだろう。落ち着いてから眠りにつくまではあっという間だった。潤はそんな美羽の頭に手を乗せてゆっくりと撫でた。
理由はわからない。だが傷ついた彼女を癒やしてやりたい。守ってやりたい。そんな気持ちで一杯になっていた。

潤はその感情をなんと呼ぶのか、まだこの時点では気づいていなかった。





___夢を見ていた。

鮮やかな白が突然黒く染まり、いつものように自分に覆い被さる。
逃げて逃げて必死で逃げて、最後にはその黒に飲み込まれてしまう。
また必死で逃げている自分がいた。いつまでもこの悪夢は終わらない…

その時黒の中に小さな白い光が見えた。
必死でその光を目がけて走った。
走って、走って、走って。光は少しずつ大きくなっていく。

力の限りその白に向かって手を伸ばした。
触れた先から温かさが流れてくる。
指先を、全身を包むようなぬくもり。
そのぬくもりに触れている時は暗闇は追ってこない。


このぬくもりをずっと…
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