愛を知る小鳥
そこはリビングだった。先程の部屋よりさらに広く、センスの良さそうなソファやダイニングテーブルが置かれている。ふと、リビングの先に並んであるキッチンで何か作業をしている男性の後ろ姿に気がついた。

「専務…」

声に気づいた潤は振り向いて美羽の姿を見るなりホッとしたように微笑んだ。

「顔色はもう良くなったみたいだな。気分はどうだ?」

「はい、大丈夫です。…あの、どうしてここに…?」

「覚えてないのか? まぁ無理もないか。昨日お前が倒れてからうちに連れてきたんだ。なんとなく病院に行かない方がいいかとも思ったし、かといってお前の家に連れて行くわけにもいかない。ここが一番いいだろうと判断して連れてきた」

自分は上司に何て迷惑をかけてしまったのだろうと青ざめる。

「本当に何から何まで迷惑をかけてしまって申し訳ありません! 何て言ったらいいのか…」

潤が頭を下げた美羽の肩に手を置くと、ビクッと弾かれたように美羽が顔を上げた。

「昨日も言ったんだが、俺にとって何一つ迷惑はかかっていない。俺がしたくてやったことだ。だからお前が何か気に病むようなことは何一つない。わかったか?」

「でも…」

「それに。散々迷惑をかけてきたのは俺の方だろう? たまには一つくらい何かお前の助けになるようなことをしないと。いつか罰があたりそうだからな。だから俺にとっても好都合だったんだ」

茶目っ気たっぷりに話す潤を見ていると、美羽の中の緊張が一気に解れていくのがわかった。自分がいつまでも気に病まないようにと、これは彼の優しさなのだ。だから私が暗い顔をしていてはいけない。そう考えた美羽は微笑んであらためて感謝の意を伝えた。

「…はい! じゃあそういうことにしておきます。ありがとうございます」

ようやく表情を緩めた美羽に潤も満足そうに笑った。
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