愛を知る小鳥
「ところで専務は何をなさってるんですか?」

「ん? あぁ、朝飯を軽く作ろうと思ってな」

「えっ! 専務が料理されるんですか?」

驚きの声を上げた美羽に潤は苦笑する。

「あのなぁ、一体何年一人暮らししてると思ってるんだよ。まぁ確かに普段やることはめったにないけど、学生の頃にはバイトしてたことだってあるし、これでも一通りのことはできるつもりだよ」

「…想像つかないです…」

「ははっ、まぁ後で本当だってことを証明してやるから。とりあえずお前はシャワー浴びてこい」

突然の爆弾発言に飛び上がりそうなほど驚く。

「なっ、何いってるんですか?!」

「アホ。変な意味じゃねーよ。お前昨日から相当汗かいてるだろ。気持ち悪いまま食事ってのもあれだから、とにかくその汗流してこい。脱衣所に適当に俺の着替え置いといたから」

「いや、でもっ…」

「大丈夫だから。別に何かやましいことしようなんてこれっぽっちも考えてない。とにかくお前に楽になって欲しい、ただそれだけだ。でもお前がやっぱりどうしても抵抗があるって言うなら無理強いはしない」

何もないとはいえ男性の家でシャワーを浴びる…美羽にとっては一生縁がないことだと思っていただけに激しい戸惑いを覚えた。だが潤を見ているとただ本当に自分を心配して言ってくれているのがひしひしと伝わってくる。そこにあるのは純粋な思いやりだけだと。
それに彼の言うとおり、実際体は汗でびっしょり濡れて気持ち悪かった。彼を信じてその言葉に甘えてみても大丈夫だろうか…?

「…じゃあ、お借りしてもいいですか…?」

「あぁ。シャワー浴びて飯食ったら送ってやるから。ゆっくり入ってこい。美味いもん作っといてやる」

ニッと不敵な笑みを浮かべた彼に見送られて、美羽は戸惑いながらもバスルームへと移動した。
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