愛を知る小鳥
「お、上がったか? …って、ぶはっ!」

気配に気づいて振り向いた潤はその瞳に美羽を捉えると、盛大に吹き出した。

「お前、上様じゃないんだから…くくっ」

「だっ、だってしょうがないじゃないですか! サイズが全然違うんですからっ!」

自分でも変だと思うこの姿が人から見ておかしくないわけがない。美羽は顔を真っ赤にして俯いた。
潤はそんな美羽の姿を素直に可愛いと思っていた。初めて見る「素」の彼女。大きな瞳にセミロングの黒髪を下ろした姿は年相応か少し下くらいの印象で、普通の可愛らしい女の子そのものだった。会社の面々がこの姿を見ても、彼女だと気づく人間はおそらくいないだろう。それほど纏う雰囲気は別人だった。
そのことは同時に彼女がそれだけ自分に何重もの鎧を着せて自己防衛していることの証だと思うと、やりきれない切なさがこみ上げた。

「よし、ちょうど飯もできたから食うぞ」

切り替えるように明るい声で美羽の頭をポンと叩いた。



「わぁ…! これ全部専務が作ったんですか?」

「まぁ俺じゃなかったら透明人間か幽霊くらいしかいないな」

笑いながら美羽はテーブルに並べられた食事に目をやる。ご飯に味噌汁、焼き魚にきんぴらごぼう、サラダに小さなパンケーキまであった。さっき寝室まで匂っていたのはこれだったのだろう。

「ご飯にパンケーキまであるって凄いですね!」

「あぁ、お前がご飯とパンのどっちが好きかわからなかったからとりあえず両方作っておけばいいかと思って。デザート代わりになるしな」

「こんなに作れるなんて凄いです! …というか私より上手です」

「焼いたり盛ったりするだけのものしか作ってないぞ? まぁとにかくあったかいうちに食え」

「…はい! いただきます」

手を合わせてお辞儀をすると、美羽は目の前の料理を口に含んだ。

「…おいしい! 専務、すっごくおいしいです!」

すっかり顔色も良くなり、おいしいおいしいと嬉しそうにはしゃぐ美羽のその初めて見せる姿に、潤は心が温かくなるのを感じていた。
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