愛を知る小鳥
あの夜から早くも一ヶ月が過ぎていた。
あの一件をきっかけに、潤と美羽の距離は確実に縮まった。特に潤の美羽に対する接し方がより優しくなったのを実感することが多くなっていた。元々そういう人ではあると思っていたが、言葉では表現できない優しさを滲ませているのだ。

しかし美羽は自分自身を戒めていた。
彼が優しくなったのは自分の過去に何かしら気付いてしまったから。身近な上司として私を放っておくことができないのだ。彼は優しい人だから。私のことが心配になってしまうのだろう。

そんな彼の優しさを「愛情」だなんて勘違いしてはいけない。
愚かな勘違いで深入りしてしまってはもう取り返しはつかなくなってしまう。
そうなってはあとは自滅の道を歩むだけだ。

だからしっかり自分を持たなければ。
今まで通りにすればいい。ただそれだけのこと…


「美羽ちゃん? どうしたの?」

「あっ、ごめんなさい。えっと、何でしたっけ?」

考え事をすると周囲が見えなくなってしまうのは悪い癖だ。

「だから、今の専務を引き出せているのは他でもない美羽ちゃんしかいないってこと。気付いてないかもしれないけど、専務って時々ものすご~い甘い顔であなたのこと見てるのよ?」

「あ、甘い…?」

「そう。あんなに優しい顔してる専務を見たことなんてただの一度もないわ。ぶっちゃけ今まで女に対してだらしなかったのは事実だけど、あの彼があそこまで変わるなんて、まさに奇跡よ」

奇跡ってそんな大袈裟な…
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