愛を知る小鳥
「でも未だに何の進展もないなんてちょっと意外すぎるわ。専務って今まで適当だった分、本気になったらガンガン攻めていきそうな感じがするのに」

「本気って…だからそれはないですから」

美羽がどんなに否定しようともあかねは自信たっぷりに持論を曲げることはない。

「もしかしたら専務自身がまだ気付いてないとか? っていうかそうなんじゃない? うん、そうだわ! だってあれだけ美羽ちゃんのことを特別視してるのに何にもしないなんて、自覚できてないとしか思えないわ。やだ~、もう初恋とおんなじじゃない!」

自分で言って自分で身悶えるあかねにもはや苦笑いするしかない。何を言おうと彼女の中で作られたシナリオを変えることはできそうもないようだ。そう判断すると美羽はそれ以上深く突っ込んだ話をすることをやめた。



結局、それから一時間ほど食事を楽しみ店を後にした。

「今日はごちそうさまでした」

「こっちこそ付き合ってくれてありがとう。こうやって個人的に食事ができて嬉しかったわ。また付き合ってね」

「はい、是非」

「じゃあまたね」

「おやすみなさい」

そう言って踵を返したあかねだったが、数歩進んだところで立ち止まり、再び美羽の目の前まで戻ってきた。

「専務、本当にあなたのことを好きだと思うわ。信じられなくて受け入れられないかもしれないけど、いつかきっと専務がそのことに気付く時がくるはず。だからあなたも頭ごなしに否定しないでゆっくり考えてみてね」

「あかねさん…」

「じゃあね!」

笑顔で手を振ってあかねは人混みの中に消えていった。彼女に言われた言葉が頭に残る。

「専務には私はふさわしくないんです…」

呟いた言葉は誰の耳にも届くことはなかった。
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