だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
「部長命令よ。しっかり治すのがまず第一」
部長命令。
そう言われてしまっては、手も足も出ない。
しょんぼりしながら台所に向かうと、水鳥さんがくすりと笑った。
また意地悪なことを言われるのかな、と思って顔を見る。
そこには、嬉しそうな水鳥さんがいた。
「チームのみんなが、今のシグと同じ顔をしてたわ」
チームのみんなが。
言葉にせずに反芻する。
「シグの負担を減らすために、みんな必死に仕事をして待ってるから、しっかり休みなさい」
心がぽかぽかした。
自分の居場所がない、なんてそんなことは全くなかった。
私は少なからず役に立てていることを、本当に嬉しいと思った。
誰かを羨んでも、結局私は『私』でしかないのだ。
他の誰にも、なれはしないのだ。
私に出来ることがあるというのはとても幸せなことだと思った。
不謹慎だけれど風邪をひいて良かった、と思ったことは内緒にしておこうと思う。
台所で二人分の暖かい飲み物を用意する。
水鳥さんには紅茶を、自分用にはココアをそれぞれ用意してリビングに座る。
「本当は、櫻井君や森川君も来たがったのだけど、風邪を引いてる自分の姿は、見られたくないだろうと思って」
こういう時、水鳥さんに心底感謝をする。
確かに、部屋は散らかっているし服だって着替えていない。
まとめた髪の毛は整えるというよりは、邪魔にならないようにしているだけだ。
そんな姿、可能な限り見られたくないと思う。
それを見越して、水鳥さんは一人で来てくれたのだと思う。
それはとても有り難いことだった。