だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
一人きりの部屋で、窓の外を見つめる。
そういえば、今日はまだ換気をしていないので窓をそっと開けてみる。
南側の窓はベランダになっており、小さな雨を受けて濡れていた。
湿度を含んだ、それでも新鮮なその風は、部屋の中を洗い流してくれるようだった。
ふと通りに目をやると、緑をたたえた桜が見えた。
うちのマンションの目の前には、桜並木がある。
公園に行かなくてもベランダからお花見が出来るので、なんだか得した気分だ。
ただ、四階から見下ろしている桜はなんだか侘しいけれど。
新芽が芽吹き綺麗な緑色になった桜に、静かに雨が当たる。
ここから見る雨は透明なままだ。
エントランスに行けば、葉を打つ雨が緑色を映しているのかもしれない。
昼間見た夢を想い出す。
現実と記憶の境目が、曖昧になってしまった。
今でも私の胸が震える景色は、沢山溢れている。
それを、湊に見せたいと想う。
湊もきっと、同じ事を考えているはず。
そう想うことで、離れていても一緒にいられる。
もう七年。
湊には逢っていない。
触れることの出来ない距離が、遠く離れてしまったことを実感させる。
逢いたい。
隣で、貴方が呼吸をしていることを感じたい。