だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
水鳥さんが、そっと私に近づく。
目線を向けるのは躊躇われたが、気付くと水鳥さんを見つめていた。
「期待をしているのよ、シグに」
水鳥さんは私を『シグ』と呼ぶ。
この響き、嫌いじゃないな、と想う。
水鳥さんの呼び方がとても優しいからだ。
「一生懸命こなしている姿を、適当に仕事をしているように誤魔化すなんて。そんな子、初めてなんですもの。仕事を見れば、しっかりこなしている事なんてすぐにわかるのに。みんなが知ってるわ、シグの真面目さを」
水鳥さんは、とても優しい顔をしている。
嬉しいはずなのに、少しだけ怖い、と想うのは何故だろう。
「でも、どこかで夢中になり過ぎないようにしているのを感じるわ。何かから目を逸らしている、そんな感じかしら・・・ね。」
水鳥さんがこちらを見つめる。
優しく追い詰められた気分。
水鳥さんをたまに『怖い』と想うのは、こういう瞬間だ。
人の心を見透かす術だとか、人の心を読む術だとか。
水鳥さんは、そういうことにとても長けている。
一度睫を伏せて、もう一度水鳥さんを見つめた。