だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版





「何が出来るのか、まだ分からないんですけど。私に出来ることをするだけです。」




何か言わなくちゃ、と考えたわけではない。

思ったままの言葉が、口から放たれたような感じだった。



何が出来るのかなんて、自分にはわからない。

けれど、今出来ることはしっかりする、という私の心の中。




水鳥さんはさっきよりも更に優しく微笑んで、そうね、とだけ言った。




太陽の光が、眩しく差し込む。

やはりこのミーティングルームは最高だと思う。

社内で一番好きな場所。








『日差しも眩しくて綺麗だけれど、雨の音も煌いて美しいと想えるよ』








遠くで声がする。

耳から聴こえる音とは、違う。

遠く、記憶の中でする声。



言葉を大切にしているからこそ、気障な物言いになる人。



驚く程低い声に、少し嬉しさを含んだ声だとわかる。

誰にわからなくとも、私には。




陽の光の輝きは、時に何も見えなくさせる。

雨の静かな滴りは、時に全てを鮮明にさせる。




「さ、早く片付けて戻りましょうか」


「そうですね。あまり遅いと五月蝿そうですから」


「ふふ。それもそうね」




そんなやり取りをして、水鳥さんとミーティングルームを後にした。




< 17 / 107 >

この作品をシェア

pagetop