だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
「何が出来るのか、まだ分からないんですけど。私に出来ることをするだけです。」
何か言わなくちゃ、と考えたわけではない。
思ったままの言葉が、口から放たれたような感じだった。
何が出来るのかなんて、自分にはわからない。
けれど、今出来ることはしっかりする、という私の心の中。
水鳥さんはさっきよりも更に優しく微笑んで、そうね、とだけ言った。
太陽の光が、眩しく差し込む。
やはりこのミーティングルームは最高だと思う。
社内で一番好きな場所。
『日差しも眩しくて綺麗だけれど、雨の音も煌いて美しいと想えるよ』
遠くで声がする。
耳から聴こえる音とは、違う。
遠く、記憶の中でする声。
言葉を大切にしているからこそ、気障な物言いになる人。
驚く程低い声に、少し嬉しさを含んだ声だとわかる。
誰にわからなくとも、私には。
陽の光の輝きは、時に何も見えなくさせる。
雨の静かな滴りは、時に全てを鮮明にさせる。
「さ、早く片付けて戻りましょうか」
「そうですね。あまり遅いと五月蝿そうですから」
「ふふ。それもそうね」
そんなやり取りをして、水鳥さんとミーティングルームを後にした。