だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
信頼...シンライ
「しぐれーっ!」
オフィスの方から大きな声が飛んでくる。
ニヤリと笑う人の顔が浮かんだ。
「あらあら。もう待ちきれなくてお迎えが来たみたいね」
「・・・なんか、嫌な表現ですね。私のこと待ってるみたいじゃないですか」
「あぁ、それは違うわね。櫻井君は『懐いている』訳ですものね」
「犬・・・みたいですね」
「それも大型犬ね」
くすくす笑う水鳥さんは、お先に、と言って先に行ってしまった。
しっかりお盆を持って行かれたあたり、本当に抜かりがない。
ごめんなさい、と心の中で謝りながら、面倒な人が来たことに頭を悩ませていた。
何だってあの人は、こんなに声が大きいんだろう。
自分のことを棚に上げているのは、重々承知だ。
けれど、やっぱり憎めない。
面倒と想いながらも、嫌いとは違っていた。
少しだけ遠くに行っていた意識は、しっかりとここに戻ってきた。
騒がしいあの声が教えてくれる。
ここが今居る場所なのだ、と。
櫻井さんの大きな声に向かって、ミーティングルームから足を踏み出した。