だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
「なんっで私が近藤勇なんですか!!」
「だってお前好きじゃないか、新撰組」
「好きですけど、局長はそこまでじゃないです!!」
「贅沢言うなよな~」
「せめて沖田総司とか藤堂平助とか、あったじゃないですかっ!!」
「・・・ブハッ!!そんな華奢な印象、俺にはねぇよ」
そう言うと、颯爽と席から立ち上がりオフィスを出て行こうとする。
走ってなるものか、と思いながらも心なしか早足でその背中を追いかけた。
二人とも声が大きいのでオフィス中に筒抜けだ。
恥ずかしいけれど、侮辱されてこのままでなるものか、という気持ちの方が勝っていた。
収まらない怒りをまずは抑える。
櫻井さんがこういう時に向かうのは、給湯室と決まっている。
なので、私も足早に給湯室へ向かった。
案の定給湯室へ逃げ込んだ櫻井さんは、すでに落ち着き払った様子でコーヒーを入れていた。
その様子を見てしまうと、なんだか怒っていた自分が馬鹿らしく思えてしまう。
こういうところは大人な感じがするのに。
どうしていつもは落ち着きがないのだろう、と考えてしまう。
どの姿が本当のこの人なのか分からなくて、そこに踏み込んではいけない気持ちになる。
見えている櫻井さんの奥にいる『本当の櫻井さん』を知ることは、とても怖いことのように思えた。