だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
光彩...コウサイ
「ほら」
振り向いてマグカップを渡してくれる。
櫻井さんは記憶力がすごくいい。
マグカップとか座席とか、そういう社員に関わるものをきちんと覚えているのは彼の美徳だと思う。
事実、櫻井さんはとても人気がある。
独身だし見た目だって綺麗と呼ばれる部類なのだろう。
ここまで条件のイイ人はいない、と。
女性社員はほとんどの人が目を付けているらしい。
なのに、この人は本当にガードが固くて。
相手に気付かれないやり方で、自分の領域の中に入れない方法を知っている。
それは、『狡い』方法で。
それでいて『怖い』方法だと想う。
ただ、近くに居過ぎると馬鹿さが目に余る。
本当に、目に余る。
「せっかくなので、いただきます」
受け取ったカップの中身はホットココア。
私はコーヒーが得意じゃないので、いつもココア。
ココアと牛乳を常備している。
同じ部署なので知っていても当然だけれど、ここまで細かいことを覚えられているのは少し恥ずかしい気もする。