だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
「仕事に飽きたら、言えよ。そんなこと言えない仕事を、お前のために作ってやるから」
不意にそんなことを言った櫻井さんを、まじまじと見つめてしまう。
当の本人は、給湯室のポットをじっと見下ろしたままコーヒーを啜っていた。
作ってくれたホットココアは飲み易い甘さに調節されていた。
「誰も『飽きた』なんて、言ってないじゃないですか」
どう答えていいかわからず、ココアを啜る。
間近に感じる視線に、目を合わせることは出来なかった。
図星、とまでいかなくても。
見透かされた気持ちになるのは、居心地が悪かった。
「しぐれがいるから、助かってる。それは、みんなが思ってるぞ」
「・・・それなら、いいんですけど」
視線を感じて櫻井さんを見上げる。
私よりも十センチほど身長が高い。
「頼りにしてるってことだよ。みんながしぐれを」
この人の言葉は、いつも真っ直ぐだ。
年齢なりに、嘘で固められていてもおかしくないはずなのに。
この人は、どうやってこの真っ直ぐさを守ってきたのだろう、と想った。
――――――大違いだな。――――――
そう想って、力なく笑って見せた。