だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
席に戻って、仕事の山に目を向ける。
それは、私の席のものではない。
案件を抱えているのは櫻井さんだ。
次のウェディングイベントで、櫻井さんはなぜかチーフに抜擢されていた。
まぁ、尾上部長が統括補助をしているくらいだから、うちのスタッフが抜擢されるのも納得なんだけれども。
チーフと言えど、現場の指揮に関して全てを把握しなくてはいけないので、大変な仕事量になるであろう櫻井さん。
加えて、印刷系部門の広告を使用してくれることになったので、その打ち合わせやら先方の顔合わせで、てんてこ舞いの状態が続いている。
櫻井さんのサポートをメイン業務にしているので、もちろん、それに同行している私も同じように走り回っている。
なのに何故か。
仕事量が櫻井さんよりも明らかに少ないのは、うまく仕事量を調整してくれているからなのだろう。
「なんでそんなとこまで、気が回っちゃうんでしょうね」
「あら、それが櫻井君の性だもの」
「ですね。意外と世話焼きですもんね」
自分だって忙しいのに。
私のことにまで気を回して欲しくないな、と思ってしまう。
今は、仕事に没頭していたい。
例えそれが、私にとってあまりよくない選択だとして構わない。
胸の奥の何かが襲ってくるくらいなら、いっそ。
余裕のある時間なんてなくなってしまえばいいと思う。
仕事が増える分には、余計なことを考えずに済むので有り難いくらいだというのに。