だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
「別に胸もケツもなくなったっていいじゃないですか!元々女らしさなんて、持ち合わせてないんですっ!」
この人は本当に鋭い。
眼を誤魔化すのは、本当に大変で。
だから、櫻井さんの近くに居過ぎるのは良くない、と思う。
うちの部署には水鳥さんという絶対的なマドンナがいる。
そのおかげで、私はあまり『女性』という枠に収まっていないのかもしれない。
なので、仕事をする上であまり女扱いをされないことに不満など無い。
むしろ気を遣われて、重たい荷物の度に誰かが付いてくれる、なんて状況はまっぴらごめんだ。
それに、そもそもホスト気質のうちの営業達は。
女性らしさの欠片もない私に対して、少し過保護に気を遣ってくれる傾向にある。
有り難い半分、恥ずかしい半分、と言ったところだ。
「だからだろ?男との区別をつけるものが髪の毛だけじゃ、もったいないだろ?」
「だから髪の毛を伸ばしてるんです!!ちゃんと区別して頂けるように!!」
もうっ!!!!
いつも軽口ばかりなんだから。
「そりゃ失礼。じゃあ、これからもちゃんと髪は伸ばすんだ?」
「そうですよ。少しくらい女子力ないとな、って考えてるんですから」
「短い方が、よく似合うけどな」
どこかで聴いた、その言葉の響き。
とても懐かしくて、とても恋しいその響き。
櫻井さんの言葉が、私の意識を揺らす。
過去の想い出の中へと、吸い込まれるような気持ちだった。