だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
白昼夢...ハクチュウム
『髪、伸ばすの?』
目の前が白い日差しで包まれる。
まるで、真っ白な世界に自分が取り囲まれたみたいに。
揺れる木々の陰が薄く目の前を通り過ぎる。
ぎゅっと一度目を閉じる。
暗い世界の中。
さっきまで目の前にあった白い光。
それが、閉じた瞼の中で煌きを増していく。
そこから非道く冷たい声がする。
感情に蔭りがあるのがわかる声。
明らかに少し不機嫌な声。
嫌なら嫌だと、直接言ってくれればいいのに。
いつも声や態度に含ませるだけ。
誤魔化したりしないで欲しいのに。
私はいつも、貴方の背中ばかり見つめている。
遠すぎず近づき過ぎない距離。
そこから見つめる背中。
それは、いつも私の気持ちを鷲掴みにしてしまう。
触りたい衝動と触れてはいけない境界線の狭間で揺れる。
振り向かれたら、きっと息が止まってしまう。
それほど緊張しているというのに。
緊張までもが、私の心を満たしているような気持ちになる。
そばに寄り添っているかのように心地良い。
混ざり合うことのない、矛盾しかない自分の心の中。
私達の上には、緑の新芽をつけた木々が揺れていた。
新緑に変わる季節が、二人を見下ろしていた。