だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
「・・・まぁ、なんでもないならいいさ。疲れたまってんのかもしれないな」
「いえ、本当に大丈夫、ですから」
「悪いな。同行させないと、お前が仕事にならないだろうと思って」
そう言って心底申し訳なさそうに、櫻井さんは私の頭に手を置いた。
ぽんぽんっと、小さな子供にするように。
大きな手だな、と思う。
男の人の手、なんだと。
安心してしまいそうになる自分の思考を、何も考えないようにシャットダウンしたいのに。
この手の温度と感触が。
居心地良いと感じてしまう自分に、悔しいやら嬉しいやら、手に追えない感情が溢れそうだった。
女子社員にこんなところ見つかったら、どんな噂話を流されることか。
みんなそれなりに大人なので面と向かって何か言われたことはないが、良く思われていないのかな、ということは今までもあった。
まぁ、私はそれなりに人当たりもいいし、社内の上役と仲がいい。
直接私に何かをしてくる度胸なんて、ないだろうけど。
それでも、女子の嫉妬は怖いものだ。
それを知ってか知らずか、櫻井さんは出先以外では、私に必要以上に触らない。
気を遣ってくれているのかも、と考えることもある。
ま、実際は何も考えていないのだろうけれど。