だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
「さて。じゃあ、ハラペコ後輩のために飯でも行くか。どうせ腹減りすぎたんだろ」
こういうことを言わなければ、素敵な人だと思うんだけどな。
調子の良さが私を安心させることに気付いているのかもしれない。
本当は、色んな事に気付いているのかもしれない。
そこに触れずにいてくれる優しさは、純粋に素敵だと想う。
この人は、上手に相手を思いやることが出来る人なのだ、と。
実感するばかりだった。
「ほら、行くぞ」
さりげない気遣い。
そこに、優しさと鋭さを感じて戸惑うけれど、顔に出さない努力をした。
なんだか悔しいから。
「美味しいものが食べたいです」
「わかったよ。どっかイイトコあったっけなぁ」
「こっちの方、最近よく来てるんじゃないですか?」
「まぁな。でもほら、どうせ奢るなら安い方がいいかと思って」
「ホント失礼ですよね。ってか、誰も『奢ってくれ』なんて言ってないですってば」
「そうカリカリすんなよ。足りてねぇんじゃねぇの?カルシウム」
意地悪な顔をしたまま先に歩き出した櫻井さんを早足で追いかけて、その背中に追いつく。
子供みたいなその人に、スクリと笑いが零れた。
――――――似てるな――――――
自分の笑い方が不自然にならないように気を付けて、櫻井さんを見つめていた。