だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
長い睫毛。
横を向いた時の目が、とても綺麗な人。
臥せた影も、開く瞬間も、綺麗な瞬きをする人だ、と思った。
ぼんやりそんな事を考えていると、目だけがこちらに戻ってきた。
びくりと肩が上がる。
じっと見つめたままだったので、しっかりと目線をとらえてしまった。
恥ずかくなって急に身構えてしまい、目線を外すことが出来なくなってしまった。
「早く何か頼んじまえ。時間なくなるぞ」
そう言って片手でメニューを渡してくれる。
もう片方の手には、火をつける直前のタバコを持ったままで。
「あぁ、そうですね。櫻井さんは決めたんですか?」
目線を外すきっかけを見つけたので、やっと上がっていた肩を下げた。
もう一度目が合うとまた外せなくなりそうだったので、タバコに目をやる。
「もう決まってるよ。意外とよく来るんだ、ここ」
「そうなんですか。素敵なところですね」
タバコを見つめたまま、適当な相槌をした。
一呼吸おいてから、メニューに目を落とす。
並んでいるメニューはサラダとセットのプレートものが大半で、いかにも『女子』の好きそうなものばかりだった。
けれど周りを見渡すと、以外にもサラリーマンっぽい御一人様も多い。
私はミニオムライスとキッシュのセットランチ。
櫻井さんはミートソースとエビフライのセットになったワンプレートランチを、それぞれ手早く注文した。
注文した後の沈黙が、なんだかとても重たい物のような気がして。
どうすることも出来ずに、ただ窓の外を眺めていた。