だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
「さっき、何があった?普通じゃなかっただろう。『ぼーっとしてました』なんていい訳が、俺に通じると思うなよ」
有無を言わさない強い瞳で私を覗き込む。
本当にこの人は鋭い。
敏感に人の変化を感じることは才能だと思う。
けれど、もう少し鈍感でいて欲しい。
だって、こんな風に真っ直ぐ聞かれたら全てを吐き出してしまいそうになってしまうから。
上手く隠してきたこと。
誰にも言っていないこと。
まだ伝え方がわからない。
「・・・少し、想い出してたんです。昔のこと」
「昔のこと?」
「はい。だから、ちょっとぼーっとしちゃって。すみませんでした。」
俯いてそう答えた。
言ったことは嘘ではないけれど、少し言葉足らずだ。
櫻井さんの背中と言葉。
それに私の記憶が反応しただけだ。
どんな言葉で伝えても、櫻井さんは納得してくれないのだと思う。
私だって、こんな説明で乗り切れるなんて思っていないけれど。
上手に説明出来る自信なんてなかったので一言だけ伝えた。
どんな言葉が返ってくるか、少し怯えながら俯いていた。
けれど、いつまで経っても静かなまま。
何の言葉も飛んでこないので不思議に思って櫻井さんの方へ顔を上げた。