だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
櫻井さんは腑に落ちない、という態度を全面に出していた。
その目の奥は、冷たくて感情が籠っていない感じがする。
見極めるためだけの、目。
その目に向かって、困ったように微笑んでみた。
「腑に落ちない、って顔ですね」
「まぁな。でも、話す気もないだろう?」
「そんなに決めつけないで下さい」
「じゃあ、話すのかよ」
「・・・いいえ」
また少し張り詰めた空気の中、櫻井さんはタバコを灰皿に押し当てて消した。
余裕の笑みを浮かべる私に、諦めたように困ったような笑顔を返してくれた。
その顔は、諦めたわけではないけれど無理強いはしない、と伝える顔で。
そんな顔をさせてしまったことを、少しだけ申し訳なく想った。
「すみません」
「謝るなよ」
「でも・・・」
「悪かったな。そんなに追いつめるつもりはなかったんだ」
この人は、優しすぎる。
私はあくまで誤魔化しただけで、真実であることを伝えようとしなかったのに。
そんなことをさせたのは自分のせいだ、と。
謝ることの出来る櫻井さんは、やはり『誠実』と呼ぶに相応しいのだろう。
櫻井さんはもう一度タバコを取り出した。
灰皿の横にあるライターに手を伸ばして、目の前の人に差し出した。