だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
フッと笑った顔はいつもの意地の悪い笑い方で、もういつも通りだ。
「まぁ、いいさ。俺に見惚れてたってことで」
「いいですよ、それで」
呆れたように言い放つと、楽しそうに笑う櫻井さんの顔が見えた。
別に見惚れてたわけじゃないけれど、ご機嫌そうだしそういうことにしておこうかな、と思う。
なんにせよ、心配をしてくれていたことは十分に伝わってきた。
これ以上何も言わないよ、という声が聞こえてきそうな顔が目の前で笑っている。
「お待たせしました」
タイミング良く料理が運ばれてきたので二人でご飯を食べる。
食べ始めると少しの間、無口。
合間で次のアポの打ち合わせだの、前のアポの内容確認だのと、頭の中はすでに仕事モードだ。
次々に繰り出される仕事の話を、食事をしながら二人で打ち合わせを進める。
お互いに仕事バカなので、別にランチミーティングも苦にならない。
「よし、じゃあこれで一段落だな」
「そうですね。これで頭の中、整理できました。すいませーん!飲み物お願いしまーす!」
『はぁーい』という店員さんの可愛い声が響く。
気持ちのいい声は、美味しい食事の後にぴったりだと思った。
ひとしきり打ち合わせを終えて、運ばれてきたコーヒーゆっくとを啜る。
もちろん、私はココアだけれど。
窓の外は、少しずつ蔭りを増していた。
そういえば、午後からは雨が降るかもしれないと天気予報で言っていた。
「雨になりそうだな」
同じように窓の外を見ていた櫻井さんが呟いた。
「そうですね」
そっと応えた。