だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
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「そろそろ行くか。傘も買わないと行けないしな」
「そうですね。近くのコンビ二で傘を買って向かいましょう」
雨は小さく降り出した。
いつも折りたたみ傘を持っているけれど、二人で差すには少し小さいので言わないでおこうと思った。
二人で傘を差すのはなんだか気が引けるし。
伝票を手に取って立ち上がる。
そそくさと会計に向かって歩き出す。
後ろから櫻井さんの足音が近づいてくる。
なんだか少し早足な靴の音に後ろを振り返った。
そこには、少し不機嫌そうな顔をした男の人が立っていて。
見上げたその顔の印象に、ドキリと胸がなった。
その角度が。
見上げたその雰囲気までもが。
――――――見間違い、よね?――――――
見つめたままでいると、パッと手に持っていた伝票を取られた。
我に返って櫻井さんを訝しげに見つめると、呆れたような顔をされてしまった。
「お前なぁ」
「なんですか?」
「ったく。奢ってやるって言ったろ。こんな短時間で忘れるな。」
そういえば・・・、そんなことを言われたっけ。
伝票が挟まっている小さなバインダーが、おでこにコツンと当てられた。
大きな背中が私の目の前をすり抜けていく。