だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
コンビニまで走っても、濡れはしたが大したことはなかった。
霧吹きのシャワーのように、とても細かい雨は少し気持ち良かった。
きっとこれが仕事中でなければ。
ずぶ濡れになるまで、この小さな雨の中にいてしまうだろうな、と思った。
好奇の目に晒されても、びしょ濡れになって風邪をひいてしまうことが分かっていても。
そんな馬鹿なことを考えて、小さく笑う。
その笑い方は、とても弱くてか細くて。
きっと、頼りない笑い方になってしまったのだろう。
「どうした?」
「あ、いえ。なんでもありません。大粒だったら、大惨事だな、と思って」
「あぁ、確かにな。霧雨で助かったな」
「ほんとに。さぁ、傘買って行きましょう」
入口にある傘を二本持って、レジへと並ぶ。
櫻井さんが声をかけてきたけれど、にっこりと笑ってそれをかわした。
「おい、寄越せって」
「いいですよ。お昼ご飯のお礼です」
「そんなもんより、飲み代のがいいんだけど」
「ソレはソレです。コレはコレです」
「はいはい。強情だな、お前も」
「褒め言葉と、受け取らせて頂きますね」
どうやら根負けした様子で、レジから離れてコンビニの入口に立っている。
その背中が。
雨の中に滲むように見えて、少しだけ切なくなった。
「お待たせしました」
声を掛けると優しい顔でこちらを向く。
二人で真新しいビニール傘を差し、次の打ち合わせへと歩き出した。