だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
「お前の入れるココアは落ち着く」
森川はぼそっとそんな事を言った。
なんだか恥ずかしくなって、どう答えていいかわからなくなってしまった。
機械的なチンという音が鳴るまで、森川と一緒に電子レンジを見つめていた。
「そろそろ戻る」
私のココアが出来るタイミングを待っていたかのように森川が言った。
律儀な人だな、と思って森川と目を合わせて頷いた。
満足そうに一度笑って森川は給湯室のドアに向かう。
ココアをかき混ぜて一口啜る。
甘くてほっとする味。
さっきまで大きな声を張り上げて、ツンツンした心が凪いでいく気がした。
ドアの前で森川が一度立ち止まってこちらを向いた。
ココアを啜りながら尋ねる様に森川を見つめる。
目が合っても森川は何も言おうとしないので、不思議に思って私から声をかけようとする。
不思議な目。
大きな黒目が私を捉えて離さない。
背の高い森川からは少し私を見下ろしているはずなのに、同じ目線で目が合っているような感覚に陥る。
それは背の低い私の方からだけの感覚なのだろうけれど。
「もりか―――――」
「八時までに仕事を終わらせるから、ビルの下で待ってろ。俺の罰として飯奢ってやる。」
そう言って森川は踵を返す。
はっとして背中に言葉を向けた。
「あ、別にいいよ、罰なんて!もりかわ・・・っ!」