だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
「森川との約束と、上司からのお誘い」
「・・・そんなの、先約に決まってるじゃないですか」
「だよな」
意地悪く笑っている櫻井さん。
何を考えているのか分からず、その人を見つめたまま動けずにいた。
「そんな顔するなよ」
「櫻井さんが、変なこと言うからじゃないですか」
「だからって、睨むなよ」
「・・・すみません」
睨んでいるつもりはなかったが、素直に謝った。
睨むつもりなんてなかった。
ただ、櫻井さんの目の奥に何があるのかを知りたくて、見つめていただけだった。
「久しぶりに、ゆっくり飯でも、と思っただけだ。ほら、この前のもあるしな」
そう言われれば、そうだ。
奢ってもらっておいて、長くそのままにするのは自分の性に合わない。
確かにお誘いは魅力的だが、今日は森川の話を聞いてあげようと決めていた。
「すみません。今度、ゆっくり。今日は先約を優先します」
「わかってるって。楽しんで来いよ、ほどほどに」
「はい。お疲れ様でした」
ゆっくり飯でも、の時がきたら。
この前の話をもっと聞かれてしまいそうな気がしていた。
これ以上櫻井さんに踏み込まれたら。
私はどんな言葉で伝えればいいのだろう、と少しだけ頭を悩ませた。