だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
「やっばい・・・っ!」
ぼーっとしている時間は、私の朝にはない。
素早く長い髪を乾かして簡単に化粧をする。
基本的に化粧が嫌いなので、ほとんどノーメイクに近い。
社会人としての礼儀を怠っているだけ。
いつものパンツスーツに足を通す。
ハンガーにかかっているカットソーを掴み頭を通す。
膝下までしかない『オバチャンストッキング』を履き、髪の毛をひとまとめにする。
買ったときよりもかなりゆるくなったスーツを、ベルトで締め付ける。
それもあまり意味を成さないのだけれど。
今日は燃えるゴミの日。
ゴミ袋を抱えて、お弁当と鞄を一気に掴む。
忘れていたけれど、今日は少し早めに出社する日だった。
いつもより十五分以上早く家を出たけれど、間に合うか微妙な時間になっていた。
駅まで七分。
走って四分。
「・・・やるか」
覚悟を決め全力疾走する。
汗だくで髪もぼさぼさになるけれど、そんなのかまっていられない。
四月。
春の風がまだ少し冷たい。
桜が咲くにはまだ気温が低い。
新しい物が芽生える季節。
何かを期待せずにはいられないけれど、それがどうか素敵なものであるように祈った。
全速力で駆ける駅までの道のりの中で。